「着物は決め事が多くて面倒くさい」との意見を耳にします。
確かにそうかもしれません。着物は○○でなければならない、とのルールが多いのです。ですがその多くは冠婚葬祭、礼装に関することで、普段着、カジュアルな着物にはそれほど面倒なルールはありません。最近ではカジュアル着物を自分なりにアレンジして自由にお洒落を楽しんでいる着物女子をよく見かけます。
ですが、日本の着物が今日まで生きているのは、厳格と言ってもよいほどの、ルールによる所が大きいと私は考えます。
着物における厳格な取り決め、守るべきルールが無ければ着物は既に日本の国土から消えているでしょう。その最たるものが留袖です。留袖が日本女性の第1礼装である、という取り決めがなければ現在結婚式で着る人はいない筈ですから。
逆の発想をしてみます。「来春、甥っ子の結婚式何着よう?招待客じゃなくて親族だし?洋服?靴、ヒールの高さは?バッグはエナメル?一体何をどう着ようかと考えていると衣裳ドツボにはまりますよ。
冠婚葬祭について、きちんとルールが決められている方が楽じゃないですか?
着物を目的別に分類し、TPOに即したルールを復習してみます。
1.フォーマルな着物
1-1 留袖 ミセスの第1礼装
1-2 色無地 これさえあれば憂い無し
1-3 訪問着と付下げ、格付け+お洒落感を満喫
2.カジュアルな着物
2-1小紋 着物の神髄を味わう
2-2紬 伝統技術を身に纏う
2-3 浴衣 みんな大好き!夏の着物
1.フォーマルな着物
1-1.留袖 ミセスの第1礼装
フォーマル着物の筆頭は既婚女性の第1礼装、留袖です。
留袖とは洋服で言う所のイブニングドレスに相当し、最も格の高い衣裳です。現在の留袖とは着物の裾部分に絵羽模様(上下続き柄)が入り、五つ紋(胸紋、袖紋、背紋)が入っているものを指します。黒地に絵羽模様の着物を黒留袖、色地に絵羽模様の着物を色留袖と呼びます。明治17年に「礼服は縮緬か羽二重、黒または色物、五つ紋付き、裾模様に白羽二重の重ね」との法令が出されました。以来、神式、キリスト教式を問わず、結婚式では新郎新婦の母、親族の既婚女性は黒留袖を着用するものとなっています。
近世より女性は既婚または一定の年齢を過ぎると振袖の丈を短く留める、という習慣がありました。古神道では袖には呪力があり、思いや念が籠もるものとされています。万葉集などの古典には袖にまつわる表現が多く出てきますが、
「袖振る」(大好きー、な感じ)
「袖を濡らす」(グスン、悲しいよー、な感じ)
「袖を絞る」(もう大号泣―!な感じ)
いずれも恋愛や涙に纏わる言葉ですね。袖を留める、とは少女時代の自分と決別する、過去の未練をここで押し留めるという意味があるようです。(“断つ”という言葉は縁起が良くないので“留める”)
結婚式には黒留袖、というのは厳格な着物のルールですが、袖を留めて次のステージにかけあがる日本女性の姿は、潔くかっこいい生き様じゃないですか。
1-2 色無地 これさえあれば憂い無し
生涯で最も着る機会が多い礼装が色無地です。色無地とは地紋のある白生地を一色で染めたものを指します。家紋入りであればお宮参り、入学式、卒業式、お茶会にも着用できます。日本人の色彩感覚は恐るべきもので、伝統色の色数は無限です。
私は浅茅色の色無地に金糸の袋帯で同僚の結婚式に出席し、同じ着物に黒帯を合わせて法事にも着用しました。
絵柄の無い単色の着物は華美に走らず、格を保ち、落ち着いた印象を与えます。
インターネットで紺絽の色無地を購入し、背に一つ紋を入れて夏の礼服にしました。夏用ですからポリエステル、洗える着物でございますよ。夏場は洗える着物推奨な私。母の法事にポリエステルの色無地を着て参列した所、お寺の奥様が「あら、いい着物じゃない、え?化繊(ポリエステル)なの?」と言われたのでOKなのだと思います。ポリだけど紋付、高い素材にすればいいってものでもありません。(正絹の方が涼しいけどね)
紋が一つ入っているだけで、色無地の着用範囲はかなり広がります。
ありがたや、色無地!強い味方、色無地!
色無地は紋付でなければ礼装にはなりません。これも着物のルールです。
1-3.訪問着と付下げ 格付け+お洒落感を満喫
訪問着とは華やかな全体柄で留袖の次に位置する着物です。呉服店で着物を誂えると一番に訪問着を薦められることと思います。だって高級だから。親族以外の結婚式、入学式、パーティーなどに適しています。訪問着に紋を入れると格が上がり、着用範囲が限定されるので、紋を入れない場合が多いようです。紋に拘らないのであれば訪問着一着あれば冠婚葬祭からちょっとしたお呼ばれまで、難なくこなすことができますよ。飾り気の無い色無地よりも訪問着の方が人気は高いですしね。しかし私、訪問着は余り好まないのです。理由は豪華に見え過ぎるから。冠婚葬祭は着物の品評会じゃないのだから、豪奢であれば良いとは限りません。その場と自分の立ち位置に合った着物を選ぶべきと考えます。個人的に訪問着の派手さに自分の顔が追いつかないだけかもww
私が好んで着るものは訪問着よりも付下げだったりします。付下げは反物の状態で柄付けするので、左胸と裾部分にしか柄がありません。ワンポイントみたいなイメージですね。訪問着より少し格は下がりますが、派手過ぎない柄付きはさりげない美しさがあります。私が大学の卒業式に袴と一緒に着ていたのも付下げでした。(当時は着物のことを何も知らなかったので、母に無理やり着せられた)柄が少ないので基本的に付下げは訪問着の半分のお値段です。(例外あり)だからこそ売る側は付下げよりも訪問着を全力でおすすめするわけです。お店では「いやあ、最近、付下げはほとんど無いですよ。訪問着なら良い物がたくさんあります。こちらなどいかがでしょう?」と言われました。だって仕方ないじゃん、私は付下げが好きなんだもん。訪問着と付下げ、格はほとんど変わりませんから、あとは好き好きですよね。ならばこそ、私は訪問着よりもお得な着物、付下げ推しです。

2.カジュアルな着物
2-1.小紋 着物の神髄を味わう
小紋とは全体的に柄付きがある着物、繰り返し同じ模様を染めた着物を指します。お洒落着の筆頭と言えば小紋で決まりです。観劇や街歩きなど、要するに普段着として楽しく着られる着物です。観光地でレンタル着物として提供されているのは小紋ですね。本当の着物好きとは小紋好きな人でしょう。小紋こそ個人の趣味が大きく反映される着物だと思います。初めて着物を着る人はやはり小紋に袖を通すことになります。ネット販売でとてもお得な着物セットというと、小紋と名古屋帯、帯締め、帯揚げなどがひとまとめになっています。ポリエステルが多いと思いますが、こうした小紋セットは着付けの練習用に最適です。あまり深く考えず、自分のセンスで着たい!と思うものを選びましょう。
2-2.紬 伝統技術を身に纏う
紬も楽しいカジュアル着物です。紬糸を織り上げしっかりとした布地になるので、着付けると線がバチっと決まります。紬とは先に染色した糸を織り上げる着物なので、(他の着物は白反物に染色し柄を描く)織り上げていく行程で幾何学的な模様が浮かび上がります。想像できます?柄を出す為に全ての糸を計算して染めていくんですよ。Amazing!職人芸と一言では表現しきれない神業が連綿と伝えられているのです。日本各地に伝わる独特な紬は伝統技術の極みに達しているでしょう。こうした織物は女性が考案した物が多いそうです。紬は普段着ですから、「少しでも綺麗なものを着て、日常を過ごしたい!」という女性たちの切望が生み出した衣類なのでしょう。普段着として編み出された紬は今では芸術作品として昇華しています。大島紬、結城紬、小千谷紬など優れた紬は古から続く地元女性の心を映すもの、彼女ら何をを思い杼をさしていったのか、優れた紬を見ると産地を訪れてみたくなります。
2-3.浴衣 みんな大好き!夏の着物
現代人がもっとも親しみのあるカジュアル着物、それが浴衣でしょう。老若男女、みんな浴衣が大好きです。浴衣は洋服で例えるとGパンくらいの格付け、と言われますが、現在はお洒落着という位置付けでよいと思います。Gパンより全然かわいいじゃん、てことで。江戸城大奥で将軍さまがお風呂から上がると、手ぬぐいといった物は使いません。一枚一枚浴衣を着せ、水分を取り除くんですって。なんて無駄、いや贅沢な。女官たちはその浴衣を頂き、大事に国元へ持ち帰るのだそうです。お風呂で着る着物だから浴衣となります。元々は下着感覚だったのでしょう。高温多湿の日本で浴衣は実にありがたい衣服です。夏祭りや花火だけでなく、昼間のお出かけにも浴衣を着て行きましょうよ。
浴衣は誰でもすぐに着られるようになる着物です。以前高校生に自宅で浴衣を着せていた時、「見てればすぐに覚えられるよー」と言いました。そしたらば、女子高生4人揃ってガン見!!です。熱い視線を感じながら一人ひとり着せていくと「ゆうさん、次わたしにやらせてください」とか「一人で着てみたいです」と嬉しい言葉が聞こえてきました。次の夏まつりには自分で浴衣を着る姿が見られるかもしれません。浴衣が着物を未来へ継承するきっかけになれば、と思います。