有史以来、人類は持てる叡智を尽くしあらゆる素材を探求、吟味して衣類を作り上げてきました。
物質中に繊維が残れば人々はいかにして、この糸を身に纏うか、それのみを考えてきたように思います。その最たる物が絹、シルクであり、和服の世界では正絹と呼ばれます。他にも自然素材として優れた木綿、ウール、化学繊維のポリエステル、などが主な着物の素材となります。日本は高温多湿な国ですから、個人の趣向の他に気候やTPOに合った素材を選ぶ必要が生じます。
もちろん財布事情も素材選びの重要な要素であることは疑いようがありません。
1. 最高の着物素材~正絹~
1-1. 正絹とは何か
1-2. 正絹のメリット、デメリット
1-3. 着物は正絹でなければならないのか?
2. 新しい時代の新素材~ポリエステル~
2-1.ポリエステルとは何か
2-2.ポリエステルのメリット、デメリット
3. 伝統紡ぐ素材~木綿~
3-1.木綿とは何か
3-2.木綿のメリット、デメリット
3-3.庶民の味方、偉大な伝統衣類、木綿着物
1.最高の着物素材~正絹~
1-1. 正絹とは何か
反物の表示にある「正絹(しょうけん)」とは絹100%の織物を指します。絹は蚕が吐き出した繭を煮出して取り出した繊維です。現在地球上にある最高級の糸ですね。生産の歴史は古く紀元前3000年頃、中国の神話時代に遡ります。
糸そのものの光沢、触感、軽さ、風合いなど絹を超えるものは存在しません。
正に繊維の王!
そして蚕は生き物です。着物1反を織るのに必要な糸量は約1㎏、約432,000mの長さが必要です。1㎏の絹糸を取るために必要な蚕の繭は、約5㎏3000個が必要とされます。一着の着物を織るために3000匹の蚕が釜茹でにされるわけです。
ゆえに古来絹は特権階級のみが身につける衣類でした。古代アジア、歴代の王たちにとって絹は繁栄の証、富の象徴です。欲望はシルクロードを駆け巡り、争いは絶えませんでした。
日本では弥生時代に養蚕が伝わり、織物は税金の一部として徴収されます。
絹を超える衣類は存在しませんし、今後も生まれることはないでしょう。
至上の衣類、正絹の着物。人々が絹を求める心に限りはありません。
1-2. 正絹のメリット、デメリット
正絹のメリットは言うまでもないですが、目に鮮やかな光沢、至高の柔らかさと軽さ、自然素材の為、静電気が発生しにくい、ことなどが挙げられます。一目見ただけでそれと判る高級感に満ちていて、これこそが着物、と思わせる芸術の域に達しています。さらりとした着心地は天にも昇る思いがします。
また正絹はとても長持ちする素材です。軽くて丈夫、きちんと保管すれば変色も少なく、母子三代着られます。
冠婚葬祭、礼装、しかるべき場所への出席には正絹の着物で、という定石は揺るがないでしょう。
正絹のメリットは機能性だけでなく、周囲の目に十分耐える素材であるということ。きちんとした装いだと受け止めてもらえるのです。少し着物に詳しい人ならば、すぐに正絹を見分けますし、格を維持するには必要なものと、言えるでしょう。
正絹着物のメリットは、高級感がある、長持ちするの2点です。
正絹のデメリットは第一に高いこと、、、、何せ3000匹のお蚕さんの命ですからね。高いのは当然です。希少価値です。
元々が特権階級の衣類ですから、致し方ありません。
第二のデメリットは水に弱いこと。動物繊維ですから水分を含むと縮みます。染みもできます。簡単に洗えません、専門の洗い屋さんに出す必要があります。
正絹着物のデメリットは、高い、水に弱い、の2点です。
1-3. 着物は正絹でなければならないのか?
呉服屋さんの多くには正絹しか扱わないお店もあります。着物離れが増えた理由の一つに「正絹でなければ着物じゃない、絹以外は恥だ」と言った売り方をする店舗の存在がありました。正絹着物は流通過程が複雑で一着売れば余りにも利益は大きいです。また織、染、仕立てといった職人さんの特殊技能を十分評価する必要があります。着物販売の店員にはノルマが課され、少しでも高く売ることを目的にしていた時代もありました。正絹着物は晴れ着である為、日常を超越した金額に設定されているのも事実です。
私の結論としては、冠婚葬祭、礼装は正絹で。それ以外は別素材でも良い、と思っています。正絹のみを売りたがる販売店に対して、消費者は正絹以外の素材の良さも十分理解する必要があるでしょう。
2. 新しい時代の新素材~ポリエステル~
2-1.ポリエステルとは何か
正絹に対して人絹という言葉があります。今ではほとんど聞かれませんが人造繊維、レーヨンを指して人造絹糸、略して人絹と呼ばれました。近代の科学者たちが絹に似た繊維を作り出そうと懸命になっていたことが窺えます。
第一次世界大戦後、レーヨン糸の価格は大暴落します。変わって生産されたのが石油から作られる合成繊維、ポリエステルでした。日常の衣類としてポリエステルは実に優秀な素材で、やがて着物の世界にも取り入れられてゆきます。
2-2.ポリエステルのメリット、デメリット
ポリエステル製の着物は第一に安い!(いつも値段が一番に来てすいません)丈夫で耐久性、耐寒性があり、家で洗うことができます。基本的には着物は洗えないと思っている人が多く、物干し場に干してあると
「ええー?着物洗って大丈夫なの?ゆうさん??」
と驚かれることがあります。
「着物洗うなんて頭、正気か?」
みたいな扱いを受けたりもしました。私の脳内をご心配下さっている貴顕ににっこり笑って返します。
「これポリエステルだから洗えるんですー」
「ええええー?」
と、驚かれるほどポリエステルの着物は一般的に認知されていません。ですが、今では誰もが普通に目にする着物でもあるのです。
観光地のレンタル着物はほとんどポリエステルですし、ネット通販などで1万円以下の着物はほぼポリエステルです。
安い、洗える以外のメリットは雨の日でも気軽に着られること。濡れても縮みが少なく家で洗い、アイロンで伸ばすことも可能です。
私は着付けのお稽古、特に夏場にはポリエステル着物で行ったりします。
出かける予定の朝、急に雨が降っているのに気づき、慌ててポリエステルに着替えた時もありました。
ポリエステル着物のメリットは、安い、洗える、水に強い、の3点です。
ポリエステル着物のデメリットは嫌な表現ですが、安っぽく見られることでしょうか。
格式の高い場所には着て行けません。
合成繊維特有の静電気が発生し、体にまとわりつきます。(脱ぐときはペリっていう)
大量生産のプリントで格調高い柄は少ないです。プリント柄でもお洒落着としてかわいらしい物はたくさんありますから、街歩きには最適と言えます。
着物らしい光沢はありません。高級ポリエステル(東レシルックなど)と呼ばれる物には正絹には劣りますが、光沢も風合いも申し分ないものがあります。
ポリエステル着物のデメリットは礼装には不向き、静電気が強い、の2点です。
3. 伝統紡ぐ素材~木綿~
3-1.木綿とは何か
木綿とはワタ、綿花の実から取れる繊維でコットン(cotton)とも呼びます。正絹一辺倒の販売歴を経て、木綿の着物って何?そんなのあるの?との疑問さえ聞こえます。ですが木綿着物こそ日本の一般庶民が最も多く身に纏っていた衣類です。日本に綿花が入った当初は栽培が一般的ではなく高級品でしたが、戦国時代以降、各地で栽培、加工されるようになります。江戸時代には麻に変わって、主な着物素材として一般的になりました、
綿糸は通気性が良く吸水性も高いため、肌着などにも使われ、各地域で独自の特色を生かしたの綿織物が続々と開発されました。各大名が増収のため地産物として生産を奨励していた背景もあります。
松阪木綿、阿波しじら、会津木綿、久留米絣、薩摩絣、備後絣など伝統工芸品として現代に伝わっています。
3-2.木綿のメリット、デメリット
木綿着物のメリットは第一に気持ちいい!こと。柔らかいのにしっかりとした生地でとても着心地がいいのです。吸水性が良く夏場でもさらりとしています。綿繊維は撚りをかけてあるので、空気をたっぷり含み保温性も高いです。つまりは夏涼しくて、冬暖かい着物、高温多湿の日本には最適じゃないですか。庶民の衣類ですからもちろん家で洗えます。貴重な伝統衣類ですから専門家に任せた方が安心ではありますが。
そして更にもう一つのメリットとして、正絹よりもずっとお得です。
って、また値段の話かーい!←このサイトでは最重要特記事項なので、あしからず。
木綿着物のメリットは、安い、丈夫、気候に順応、の3点です。
木綿着物のデメリット、残念なことに木綿着物は普段着、洋服のカテゴリーとしてはジーパン位の格付けになってしまいます。ですが、お洒落着、街歩きには持ってこいです。
また自然素材のため、縮みやすいという性質を持っています。
木綿着物のデメリットは、礼装に不向き、縮みやすい、の2点です。
3-3.庶民の味方、偉大な伝統衣類、木綿着物
私が最も心奪われる木綿着物は「阿波しじら」。独特のしぼがあり、さらりとして、とても気持ちの良い着物です。初めて手元に届いたときは余りにも気持ちよく頬ずりしてしまいした。一重仕立てで5月初から9月下旬まで長いスパンで着られます。夏場の着物はもう阿波しじらしか要らない!と思うほど惚れ込んでおります。浴衣としても着られますし。夏場の正絹着物「絽」や「紗」は製造工程がとても難しくて、高級、高価な着物です。正装する場でなければ着たいと思えません。夏場は汗をかくので家でひんぱんに洗える方が衣類として重宝します。
木綿着物は高温多湿の日本で庶民の普段着として長らく愛されてきました。江戸時代に正絹着物を着ていた人なんて、全人口10%くらいに過ぎません。高級で高価でありさえすれば衣服として優れているとは決して言えないと思います。
4.まとめ
正絹だけが着物じゃない!木綿だってポリエステルだって良い所はたくさんあります。
冠婚葬祭には正絹着物、遊び着にはポリエステル、日本人らしい着物なら木綿着物、と素材分け、使い分けを楽しみましょう。
なかでも木綿着物は日本の日常生活にベストマッチした着物です。
そんなわけで「これから着物を着てみたい!」と思う方々へ向けて、着付け教室アシスタントゆうは木綿着物を全力でおすすめするわけです。
余談な木綿話
NHKの大河ドラマ、「八重の桜」を視聴していましたが、登場する女優さんたちは会津木綿の着物を着ていました。きちんとした演出だなあ、と感動したことがあります。
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